2026年6月28日、パリ・メンズ・ファッションウィークの終盤、Chitose Abe氏のsacaiは「夏のサンダル」をただ更新したのではなかった。日常の足元にあるものを、もう一度建築し直した。BIRKENSTOCK x sacaiとして披露された新作は、Aoyama 107とCassette 75という二つのシルエット。どちらも単なる別注カラーではない。BIRKENSTOCKの歴史的モデルを解体し、重ね、接続し、sacaiの文法で再構築した、新しい「履くクラシック」である。

一見すると、これは春夏2027年に発売予定の注目コラボレーションである。しかし、少し視点を引くと、もっと大きな物語が見えてくる。ドイツの整形外科的フットベッド文化、日本のハイブリッド服飾思想、パリのランウェイ、東京・青山のショップ、サン=ジェルマン=デ=プレのRue Cassette。サンダル一足の中に、半世紀以上の靴の歴史と、25年以上のsacaiのデザイン哲学が折り重なっている。

何が発表されたのか:Aoyama 107とCassette 75

2026年6月28日パリでsacai 2027年春夏メンズコレクション中に披露
Spring 2027グローバル発売予定
Aoyama 107MadridとArizonaを接続した新型サンダル
Cassette 75ArizonaとBostonを組み合わせたクロッグ型
1963BIRKENSTOCKのMadridの起点となるフットベッドサンダル
1973 / 1976Arizona登場 / Bostonクロッグ登場

公式発表によれば、今回のBIRKENSTOCK x sacaiは、BIRKENSTOCKの三つの代表的モデルを中心に組み立てられている。ひとつは、1963年に登場したブランド初のフットベッドサンダルで、のちにMadridとして知られる一枚ストラップのモデル。もうひとつは、1973年に登場した二本ストラップのArizona。そして三つ目が、1976年に登場したBostonクロッグである。

Aoyama 107は、Madridの一枚ストラップとArizonaの構造を接続する。名称は、東京・青山にあるsacaiの象徴的な店舗に由来する。Cassette 75は、ArizonaのストラップとBostonのクロッグ的なボリュームを組み合わせたモデルで、名称はsacaiのパリ拠点があるSaint-Germain-des-PrésのRue Cassetteに由来する。

素材はBIRKENSTOCKのプレミアムなナチュラルレザーとスエードレザーを使い、中心には伝説的なコルク・ラテックスのフットベッドがある。色はブラックとトープを基調とし、見慣れたBIRKENSTOCKらしさを保ちながら、重なり方、留め具、比例、輪郭にsacaiの手が入る。つまり、奇抜な外装で別物にしたのではない。見慣れたものの中の構造を動かしたのである。

Chitose Abe氏の仕事は、クラシックを壊すことではない。クラシックがなぜクラシックなのかを理解したうえで、そこにもう一つの時間を差し込むことだ。

なぜ「サンダル」なのか:日常の定番は、最も難しいデザイン対象である

ファッションの世界では、ドレスやジャケットの方がドラマを作りやすい。だが、サンダルは違う。サンダルは日常に近すぎる。玄関、旅行、犬の散歩、スーパー、空港、夏の通勤、ホテルの廊下。履く人の生活の中に深く入り込む。

だからこそ、サンダルを変えることは難しい。少しやりすぎれば履きにくい。少し控えすぎれば、ただの別注になる。BIRKENSTOCKが強いのは、長年にわたり「歩くこと」「支えること」「足の形に近づくこと」を中心に据えてきたからである。sacaiが強いのは、既存の服や道具の構造を読み、その境界線を動かすことにある。

Aoyama 107とCassette 75は、その二つの強さをぶつけている。Madrid、Arizona、BostonというBIRKENSTOCKの生活道具の歴史を、sacaiのハイブリッド構造で読み替える。足元は小さい。しかし、ここで起きていることは大きい。機能とファッション、日常とランウェイ、ドイツのフットベッドと東京の構築性が、ひとつのソールの上で同居している。

BIRKENSTOCKの歴史:健康靴からラグジュアリーの中心へ

BIRKENSTOCKの魅力は、もともと「かっこよさ」よりも「構造」にあった。フットベッド、足裏の支え、歩行、姿勢。1963年のMadridは、健康的で、ユニセックスで、当時の靴の流行とは逆を向いたミニマルなサンダルだった。BIRKENSTOCK公式の歴史は、Madridを「オリジナルBIRKENSTOCKフットベッドサンダル」と位置づけ、1963年に市場に出されたアイコンとして説明している。

1973年にはArizonaが登場した。二本ストラップのサンダルは、いまや世界で最も認知されるBIRKENSTOCKの形の一つである。1976年にはBostonクロッグが登場した。つま先を覆うクロッグ型は、部屋履き、作業靴、街履き、そしてファッションアイテムへと意味を変えてきた。

長い間、BIRKENSTOCKは「おしゃれ」と「実用」の境界にいた。健康的、頑丈、少し野暮ったい、しかし手放せない。1990年代以降、ファッションはこの野暮ったさを再発見していく。Normcore、Dad style、ugly shoes、アウトドア、ウェルネス、リラックスしたラグジュアリー。BIRKENSTOCKは、時代が変わるたびに違う理由で必要とされた。

2010年代以降は、ラグジュアリーとの接点も増えた。Célineの「Furkenstock」的な瞬間、Rick Owens、Valentino、Dior、Manolo Blahnikなどとの協業、そして1774ラインを通じた上位ファッション市場への接近。BIRKENSTOCKは、もはや「健康サンダル」だけではない。正直な履き心地を武器に、ファッションの中心へ入ってきたブランドである。

sacaiの歴史:ハイブリッドは飾りではなく構造である

sacaiは1999年にChitose Abe氏が東京で設立した。Abe氏はComme des Garçonsでパターンカッターとして働き、その後Junya Watanabeのチームにも在籍した経験を持つ。そこから独立して作ったsacaiは、ニットから始まりながら、やがて世界で最も明確な「ハイブリッド」の言語を持つブランドの一つになった。

sacaiの服は、しばしば二つのものが一つになっている。MA-1とニット、シャツとジャケット、プリーツとスポーツウェア、ミリタリーとフェミニン、フォーマルとカジュアル。だが、それは単なるドッキングではない。服がどう作られているか、どこで始まり、どこで終わるのか。その構造の境界をずらすことがsacaiの核である。

だから、sacaiのコラボレーションは単なるロゴの交換では終わらない。NikeとのLDWaffleでは、二つの靴の時間が重ねられた。Diorとの協業では、メゾンのコードとsacaiの構築性が接続された。Carhartt WIPとの協業では、ワークウェアの現実性がsacaiのレイヤーに変わった。今回のBIRKENSTOCKも、その系譜にある。

10年以上越しの再会:2014年の記憶

今回のBIRKENSTOCK x sacaiが強く響くのは、両者の関係が突然始まったわけではないからだ。GQの報道によれば、Abe氏は2014年にもBirkenstockと組み、sacaiの2015年春夏コレクションに登場したグラディエーター風のサンダルブーツや、Birkenstockの旧日本向けサブブランドTatamiのプラットフォームArizonaを手がけていた。

それから十年以上が過ぎた。この間に、sacaiは世界的なコラボレーションの名手になり、BIRKENSTOCKはラグジュアリーと日常の間を自在に行き来するブランドになった。2026年の再会は、同じ二者がもう一度会っただけではない。両者がそれぞれ進化した後で、改めて「日常の道具」をどう上書きするかを試す場になっている。

名前に込められた地図:AoyamaとCassette

Aoyama 107とCassette 75という名前は、単なるモデル名ではない。Aoyamaは東京の拠点を指す。青山は、sacaiにとって店舗の場所であり、日本のファッションが世界に向けて整えられる場所でもある。107という数字は、住所や場所の記憶を呼び起こすように、靴に東京の座標を与える。

CassetteはパリのRue Cassetteを指す。Saint-Germain-des-Présの一角にあるその通りは、sacaiのパリ拠点と結びつく。つまり、このコレクションは東京とパリを両足に持っている。片足は青山、もう片足はRue Cassette。ドイツのBIRKENSTOCK、東京のsacai、パリのランウェイ。その三角形が、モデル名の中にも刻まれている。

2027年春夏の文脈:「The New Classics」

sacaiの2027年春夏メンズコレクションは、「The New Classics」として語られた。メンズウェアの基本形、プレッピー、テーラリング、スウェット、ユーティリティ、音楽的記憶。それらをAbe氏の手つきで切り込み、重ね、ずらしていく。クラシックを否定するのではなく、クラシックを動かす。

その中でBIRKENSTOCKの存在は自然だった。BIRKENSTOCKほど「クラシック」と「日常」を同時に背負う靴は少ない。しかも、あまりに見慣れているからこそ、少しの変化が大きく見える。ストラップが増える。クロッグがサンダルになる。サンダルが建築になる。sacaiのSS27において、足元は単なるアクセサリーではなく、コレクションの思想を説明する装置になっていた。

なぜ日本のファッションにとって重要なのか

日本のファッションは、素材、構造、レイヤー、違和感、日常の再解釈に強い。sacaiは、その中でも特に「境界を動かす」力で世界的な評価を得てきたブランドである。今回のBIRKENSTOCK x sacaiは、日本のデザイナーがグローバルな定番をどう読み替えるかを示している。

これは、単に日本ブランドが海外ブランドと組んだという話ではない。グローバルな定番が、日本のデザイナーの構造的な視点を通ることで、別の生命を得るという話である。Abe氏はBIRKENSTOCKの本質を壊していない。むしろ、本質を守ったまま、見方を変えている。

日本発のファッションが世界で強い理由は、派手な表面だけではない。構造に入る。縫い目に入る。重なり方に入る。機能と記憶の間に入る。sacai x BIRKENSTOCKは、その強さを足元で示した。

Japan.co.jpの見方

Aoyama 107とCassette 75は、2027年のヒットサンダル候補である。しかし、それ以上に、これは「コラボレーションがまだ意味を持つ」ことを示す例である。近年、コラボは多すぎる。名前と名前を並べるだけの企画も多い。だが、sacaiとBIRKENSTOCKの場合、両者の思想が構造のレベルでぶつかっている。

BIRKENSTOCKのフットベッドは、人間の足に近づこうとしてきた。sacaiのハイブリッドは、服や道具の境界を動かしてきた。だから、この二つは相性がいい。歩くための道具を、考えるためのデザインに変えることができる。

夏のサンダルは、気楽なものだ。だが、気楽なものほど文化の奥へ入っていく。Aoyama 107とCassette 75が面白いのは、そこにある。軽く履けるものの中に、ドイツのフットベッド史、東京の構築性、パリのランウェイ、そしてChitose Abe氏の「新しいクラシック」が入っている。

読者のための要点

項目内容
何が起きたかsacaiの2027年春夏メンズコレクションでBIRKENSTOCK x sacaiの新作が披露された。
主なモデルAoyama 107とCassette 75。
Aoyama 107MadridとArizonaの要素を接続したサンダル。
Cassette 75ArizonaとBostonクロッグの要素を組み合わせたモデル。
発売時期2027年春にグローバル発売予定。
意味日常の定番サンダルを、sacaiのハイブリッド構造で再解釈した。

Sources and references

この記事は、BIRKENSTOCK公式発表、BIRKENSTOCK 1774 / sacaiページ、GQ、WWD、Wallpaper、Highsnobiety、Design Sceneなどの報道・解説、およびBIRKENSTOCK公式ヒストリーを参考にしました。

  • BIRKENSTOCK Group: BIRKENSTOCK x sacai debuts during sacai Men’s Spring/Summer 2027 Collection.
  • BIRKENSTOCK 1774: sacai collaboration page.
  • GQ: The New Birkenstock x Sacai Collab Was a Decade in the Making.
  • WWD: Sacai combines three Birkenstock models to create two new shoes.
  • BIRKENSTOCK Group: History of the Madrid footbed sandal.
  • Wallpaper: Paris Fashion Week Men’s SS27 coverage.